悲喜こもごもの春

 明らかに季節が半月くらい前倒しで動いているが、新緑まっさかりである。いま、インコたちの健やかな成長と出世を全力で祈願するため、インコ神棚には端午の節句のしつらえでインコサイズの冑を飾り、鯉のぼりも室内であがっている。

 その可愛さで天下をとるのだ、ごろう公!

 ●団ちゃんの死

 冬の間さぼりがちであったラジオ体操は暖かくなったら今度は諸事忙しくなって週2回参加のペースまで落ち込んでいた。しかし、4月2日、さぼろうかとも思いつつ思い立ってラジオ体操にでかけた。多摩川崖線に築かれた公園は崖をあがるのにAコース、Bコース、Cコースと我々が勝手に名付けた三ルートがある。Aは北むきに瀧をまわって遠回りするコースで、Bが直線階段で一気上がりで、Cは南むきに遠回りをして帰るコースである。

であった年の冬、団ちゃん、団パパ・ママと遠出した思い出の写真。


 その日はCコースがツツジが綺麗だというので、しばらくきていなかったわたしはツツジの写真をとるためにCコースに向かった。すると愛犬団十郎をつれたXさんもあがってきた。
 団ちゃんはミックスの大型犬で、みんなからオヤツをもらってそのたべっぷりがいいこと、撫でさせてくれることからラジオ体操のマスコットとなっていた。私もラジオ体操にはジャーキーを必ず持参し、団ちゃんのたべっぷりを愛で、ぐりぐりと撫でることを楽しみとしていた。

 その日も団ちゃんはいつもと変わらず、みながさしだすオヤツを綺麗に平らげ、Cコースの坂をのぼりながら、私は振り向きざまに団ちゃんとXさんを写真に収めた。
私の家近くにきた時、団ちゃんは暫時ふんばって動かなくなり、促されてから歩き出した。Xさんによると、団ちゃんはこの体操帰りの集団を「群」と認識していて一番最後を歩きたがるそうなので、その時もそうなのかな、と思った。いつもと同じ朝だと思っていた。

 昼、私のケータイにXさんからの一報が入り団ちゃんの急死を知った。私はすぐにとびだして団ちゃん宅に向かい、玄関に横たえられたご遺体と対面した。信じられない。つい数時間前まで元気で食事していたのに。ふときづいて「私がとった写真が団ちゃんの最後の写真かもしれません」とXさんのラインに送った。その写真をよくみると団ちゃんは私の方に数歩あゆみでて凝視していた。

 それをみたら泣けてきた。みなで写真をとる時団ちゃんはかならずお尻を向ける犬だったのである。それが今日に限って、こっちを、私の方をみている。まるで「もうすぐお別れだから」といっているみたいに。うちの側で一瞬座り込んだのも何かの予兆だったのかもしれない。団パパはショックで泣きすぎて、後に眼科にいったという。分かる。

 Xさんの許可をとって団ちゃんの最後の写真と死のお知らせをラインにながすと、みながX宅に弔問にやってきてドッグフードや花を手向けた。最初にてぶらで飛び込んだ私は三人目の弔問客がきた時点で辞去して、夕方改めてお供えのお花をもって伺うと、大型犬団ちゃんの体は花とごはんにうもれてみえなくなっていた。Xさんのお子さん夫妻が丁度お別れにきていて、全員早稲田卒だということでなぜかあがって御斎のお寿司をいただくこととなった。我ながら図々しいと気後れしたが、これは団ちゃんがこの一家を元気づけろ、と私に下したミッションのような気がしたので、謹んでお寿司を戴きつつ、彼の死を悼んだ。後に私が団ちゃんの葬儀委員長と呼ばれるようになった所以である。

 それ以後、ラジオ体操のXさんの傍らから団ちゃんの姿はいなくなったが、もう二年以上見なれた光景なので、しばらくは傍らに団ちゃんがいるような幻視があった。思えば、この二年で、Mさんは施設に入り、一緒に団ちゃんを愛でていたSさんは骨折で入院しているし、Aさんも体調不良ででてこなくなっている。変わらないようにみえて着実に変化はおきている。

 そう、私自身も年くってあの世にちかづいているのである。もっと考えたくないのは愛鳥たちの年齢である。ごろう公と花姫は2017年うまれなので、今年で6歳、長寿オカメインコは30歳とかもいるが、7-8歳で突然死する個体もSNSをみていると相当な数いる。この幸せはいつまでも続かないことを私はよく知っている。だからこそ、全力でごろう公と花姫の長寿を祈るのである。
 

花姫近影

菖蒲とごろう公

●るりの近況

例年、この時期になると体調をくずし、マーライオンとなる愛猫るりは今年はいまだその状態にならず、平和に寝ている。ミサヲさまは平成25年に成鳥でお迎えしているので、10歳以上。三回死線を乗り越えているので、若干というかかなり不安であるが、なるべく考えないようにして、パネルヒーターつよつよにしている。とにかくこのままみな元気でいてほしい。

● 最後にカイヌシの近況。

 4月21日、 拙著『物語チベットの歴史』が出版された。あこがれの中公新書であるため、嬉しさもひとしお。ラジオ体操のメンバーが、ラインに駅前の本屋の拙著をふくむ中公新書の今月の四冊の平積みの写真を投稿して、みなが買いに行くといっているのが、はずかしい。みな「本屋で何何さんとあったのよ」、とか教えてくれる。地域のコミニュティ、暖かすぎてヤバイ。

 世界中のワンコにニャンコに、お鳥様が健やかで幸せでありますように。