金剛インコがやってきた!(そして去った・・・)
今年も初代ごろうさまを我が家にお迎えした記念日11月15日がめぐってきた。酉の市もある11月、我が家はインコ愛強化月間となる。おかげ様でごろう公と花姫のお二人プラスセキセイのミサヲ様のお三方は今日も元気である。冒頭にかあいい二人の御真影をあげる。
さて、インコ友達はみなご存知ではあるが、10月に我が家に世界最大のインコ、ルリ金剛インコがやってくる事件があった。ちなみにオカメインコはインコだけど最小のオウムで金剛インコはまんまインコで世界最大のインコである(対句になってねえ)。その大きさは中型〜大型犬の存在感。10月1日に鳥さんの飼育意識を高めるために行われた愛鳥祭で、ルリコンゴウインコのバルーンが登場したが(下の写真)、この直後にまさか本物が我が家にこようとはお釈迦様でもしらなんだ。アーナンダ。
58羽の道場オカメに引き続いて金剛インコのレスキューのトバ口になったため、私はインコ神の巫女と斯界で呼ばれている。近辺のインコがピンチになるとインコの神が私を使うんだそうな。それでは金剛インコ事件の始まり始まり〜。
10月22日(日曜日)、論文を書いていると、ピンポンが鳴った。インターホンの画面を見ると、アルコール依存症で有名な近所のIさんが立っていた。
この人はいつも金剛インコを肩にのせて、近所をうろうろして駅前で本を読んだりしていて、明らかに人の気を引くためにインコを利用しているため、ここで興味を示したら思うつぼと思い、つとめて無視していたが、その雑なインコの扱い方に私はいつも心を痛めていた。
一度、インコは公園で衆人環視の中、飛び去っていったが、みながおろおろしていると「女房とインコは逃げても戻ってくる」といって周りを呆れさせた。ちなみに、女房は戻ってこなかったようだが、インコは戻ってきて、しばらくしてまたIさんはインコを肩にのせてうろうろしはじめた。あれくらい大きいインコになると、猫もカラスも敵でないし、誰かが見つけても警察に通報するからすぐみつかるんだな。
その後、彼のアルコール依存は進み、いろいろな席でしくじり出入り禁止の場所がふえ、あまり目にすることもなくなった。Iさんのことはまったくどうでもよかったが、金剛インコがちゃんと世話をされているのかは心配で心配でしかた無かった。
Iさんには虚言癖があり、お酒をのんでする話はいつもお金の話。「家をうったら39億入る。19億税金でとられたが(ちな不動産屋さんが彼の住んでいる家は彼の名義でないといっていた)、売ったお金で埼玉で新しい事業をやるとか、家の地下にワインセラーがあり、そこから高いワインを盗まれたとか、ゴッホの絵があるとか、秒でばれるウソをいうので、ご近所も相手にしなくなっていた。 こんな状態の人に飼われているインコの行く末を、いかに私が心配していたかは想像つくと思う。
観察していると彼は今住んでいる家に立ち退きをせまられており、金剛インコを養い続けることは実質不可能な状況であった。しかし、近所の人たちはみなかれの事を考えないようにしているので、そこまで情報を総合してたどりついていたのは、インコを心配していた私だけであった。そこで、私は人づてにIさんにインコの里親を探すことのできるNPOがあることを知らせ、「困ったらここに連絡してインコを託してください」と伝えていた。
しかし、いきなりのピンポンである。しかもよりによってこのクソ忙しい時期に!
インターホンこしにIさんは支離滅裂な話をつづける。「自分は早稲田出身だから、早稲田大学に寄付をして先生の寄付講座をつくってやる。先生の研究室を作ってあげる」とか、とりとめもないことをいってるが、アンタこの前、自分は学習院出身で宮様と知り合いとかいっていたじゃん。酔っ払いのウソにつきあっている暇はないので、オモテにでて
私「お酒飲んでいますね」と怒鳴ると、
Iさん「ああ、飲んでいるよ」
私「今忙しいんで要件をいってください」
Iさん「インコ・・・電話したけれども、相手になってくれなかった」と言う。え? インコの話? やっと手放す気になった?でも、こいつNPOには絶対電話してないな。
とにかくインコの状態をみないと、でもIさんの家に一人であがるのはキモいので、ご近所のMさんのところに行き、一緒についてきてもらった。Iさんの家についてみると、普通の古い日本家屋で、玄関はあけっぱなし。四方の窓もあけっぱなし。玄関で靴を脱がずに土足であがれという。土足であがる家の地下にワインセラーがあるか! ウソばっかりやな。
そして大きな畳の部屋には、天井近くまで届く巨大な自然木がおいてあり、その上に金剛インコはとまっていた(下の写真左)。やせこけて暗い顔をして私をみおろしている。私はあたりをみまわすが、インコの食べ物らしいものはない。「この子は何を食べるんですか?」と聞いてもIさん泥酔していて、「ゴッホの絵をもってくるからまってろ」とか、そんなこと頼んじゃいねーよ。Mさんのことを「先輩」とよんでいるが、Mさん慶応であんたは学習院だろ!
このインコをどうやって家につれてかえる? こんな大きな止まり木、大人三人いないともっていけない。しかも何を食べるのかもわからない。Iさんはただひたすらお金の話を続けている。そこではたと気づく。このとりとめのない話、寄付講座も、研究室も、ゴッホの絵も、お金をだすからインコをひきとってくれという風に彼の中ではつながっているんだ。アホか。あんたがお金もってないのはこの家一目見りゃわかるわい! そんな秒でばれるウソついている暇があったらこのインコについての情報をだせ!
そこでいったん家にかえり、インコサークルのひまわり会のY子さんとSさんに電話して、事情を話し、里親になってくれそうな人を探してもらう。そして金剛インコのご飯をペットショップに買いに行こうとネットで調べると、カシューナッツ、クルミ、アーモンドなどナッツ類と果物であり、幸い近所のスーパーで揃うものであった。南米から直輸入の特別なごはんかと思ったので、これだけは心底ほっとした。インコがくるならリビングにおいてあるものを片付けねば。論文かいていて全く掃除していなかったので、片付けも重労働。私が忙しく出入りしている間、Iさんは20m先の赤の他人の家の庭先においてあるテーブルとイスにウイスキーの角瓶をおいて飲み続けている。アルコール依存症が進みまくっている。
全く頼りにならねえ。
Iさんが表で飲酒していて家の中にいないのを確認して、Iさんの家に入りインコにナッツとりんごをあげることにする。大きなインコは動物園でしかみたことがないし、どう反応するかもわからないし、手の届く位置にいないので、ナッツ類を器にいれて天井にむけて さしだした。すると、インコ、ゆっくりとおりてきて、ガツガツ食べだした。
あとでわかったが、彼は空腹の極地だったのだ。
それをみて一刻もはやく保護せねばと気が焦る。
まず、譲渡を公的なものにするため、同意書をつくって彼にサインさせた(あとで名字も本当でないことが判明)。そして警察の生活安全課にいって事情を話して、「もめたらよろしく」と話を通しておく。
どうやってうちにつれていこうかと困っていたところ、
Iさん「私の肩にのせていきますよ」
私「羽は切ってますか?、昔あなた公園でこの子を逃がしてましたよね」
Iさん「切ってる、切ってる」
そこでインコをIさんの肩にのせてうちまで誘導する。インコはご飯をくれた私に好感をもったのか、素直に私の腕にうつってくれた。
私「金剛インコは高いところにとまりたがるので、あの木をもってきてください」
Iさんは家に帰っていったが、しばらくしてインコがとまっていた木の三分の一くらいの長さの別の木(しかも根っこに土がついている)をひきずりながら戻ってきた。
私「えらいちっちゃい木ですね」
Iさん「沙羅双樹の木だ。四年前、父が死んで・・・・」
私「はいはいはい、もう結構です」と、その泥だらけの謎の木を新聞紙をしいてリビングにおいたら、インコ、それにとまってくれた(上写真右)。
私「はい、ではここまでで」とドアを閉めようとすると、Iさん「最後のお別れを言わせてくれ」という。Iさんを家にあげるのはすごいいやだったが、インコが彼のことを万が一愛していたから可哀想なので、数歩だけ家に入ることを許す(そのあと床を消毒して酒臭いのでバラの香水まいた)。
Iさんが帰ったあと、私はせっせとインコにナッツ類をたべさせ、リンゴを食べさせ、鍋で水をのませた。そしたらものすごくなついて腕や肩にのりたがる。一度のると降りてくれないので、食卓の下にもぐって食卓の上にじわーっとのせるしかおろす方法がない。
仕事どころではない。パソコンの向こう側に世界最大のインコがぬるぬる動いているのである。しゃべるのである。「あーちゃん」としゃべるので、名前はあーちゃんだろう。羽をスサーっと伸ばすと実に美しい。Iさん羽切っているっていったが、切ってないじゃん!
それにしても、かわいい。この鳥と暮らしたい。
しかし、うちには1階に猫がいる。14歳の猫の老後が金剛インコにおびえる日々というのも哀れだし(猫にみせたら腰を抜かした。金剛インコも余裕でイカクしていた)、オーストラリア原産のごろう様と花姫がアマゾンの王者をみたらこれも腰を抜かすだろう。
それに、週末と月開けすぐに締め切りがあるので、インコとゆっくり遊んでいる暇はない。必死で連絡をまっていると、夕方から夜にかけてひまわり会のYさんとSさんは四人の素晴らしい候補者の方の話をもってきてくださった。みな広い一軒家にお住まいで、アルコール依存症の誰かさんと異なり、インコ飼育情報をもち、意識も高い。ただ、関西だったり、先住鳥がいるから病院につれていって何も病気をもってないことが判明するまでは家にいれられないなどの条件があった。そこで鳥の病院の予約をネットですると一番早くて次の日曜日の夜。しかも結果がでるのはもっと先。その間、金剛インコが家にいたら、私はインコにつききりになるため、締め切りはアウトである。
どうしようどうしようと迷っていると、ひまわり会のSさんが「私がいったん引き取りましょうか」とおっしゃってくださり、そこに心が傾きかけたところ、たまたま東京にきていたYさんから電話があり、事情を話すと、「私、今晩関西にもどるので飛行機キャンセルして新幹線にのせてつれてくよ!」と簡単にいう。
Yさん「先生が愛鳥祭でルリ金剛インコのバルーンの写真送ってくれた時、うちでもこのバルーンほしいねってY子さんといっていたんだけど、ホンモノの方がいい」
私「待って。どうやって新幹線乗せるの?」
Yさん「ネットみたら中型犬のキャリーにのせて移動するってある」
私「尾羽がはみでるでしょうが」
Yさん「それは出しとくしかしょうがないね。中型犬キャリー以上の大きさのものはそもそも新幹線にのせられないし」
私「金剛インコってものすごい爆音インコなのに新幹線で騒ぎ出したらどうするの?」
Yさん「その時はデッキにでるよ。今晩そっちにいくよ」
そしてその晩Yさんが我が家にきた。金剛インコのあーちゃんは「お客さんがきたーっ」と羽をひろげて舞い踊る。この子誰にでもなつくじゃん。ネットには飼い主が唯一の愛する人ってかいてあったのに。こんな簡単になつくのならもっと早くレスキューすればよかった。
Yさん「問題はどうやってキャリーにいれるかだよ。このインコに本気でかまれたら指はちぎれるね」
私「照明を一瞬暗くして、その瞬間につかんで園芸用手袋で手を防御してキャリーにいれるしかないね」
アルコール依存症の飼い主の元から、たった一泊我が家にきて、次の晩にはいきなり新幹線に乗せられるインコの恐怖を考えるとかわいそうで仕方無い。しかし、あの時の私はああするしかなかったんだよ。お母さんを許して。ってなんで子供を産み捨てた母親みたいな気持ちになってんだよ、自分。
涙のお見送りをして(あっちゅーまに情が移った)、しばらくしてYさんからメッセがくる。「新幹線無事に乗れました。あーちゃんはおとなしいです」
私「まさか死んでないでしょうね」
Yさん「諦めて静かに伏せしている。この子、賢い。家に高い衣紋掛けがあって柿の木があるから、あれであーちゃんの止まり木つくってあげよう」
その日の深夜、淡路島についたあーちゃんはえもんかけの上で就寝あそばされ、翌日はお疲れになったのか昼まで寝ていたそう。
それからのあーちゃんはおなかいっぱいごはんを食べて、人間どもを下僕にしているうちに、ツヤピカになって、ワガママをいいだして、いまはアメリカからとりよせた金剛インコ用の止まり木でくつろいでいる。そして、ご近所の人気ものである(写真左はY宅について二日目。もう触らせている。右はアメリカ製の止まり木にとまってゴキゲンなあーちゃん)。
Iさんの言うことが本当ならあーちゃんは4歳。あと56年は生きる。すでにおじいさんであったIさんの計画性のなさに呆れるとともに、次の飼い主を確保するというミッションが我々に残された。
Iさんはウソばかりついていたが、一つだけ本当だった。
あーちゃんがとまっていた、謎の木を庭においていたら、植木屋さんがこういったのだ。
「沙羅双樹ですね。」
すべてのインコ・オウムが素晴らしい飼い主のもとで幸せでありますように。
今日のるりとねこたつ も一つおまけが下にあります
あくび母さまから、ごろう様、御来迎記念のプレゼントをいただきました! 真ん中の不思議な動物は1858年にかかれた歌川芳虎の十二支すべてをあわせたお守りです。家内安全。お正月にお祭りしよう。