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様々なる命の姿


「オカメインコはヒナの時は虚弱だが大人になったら病気をしない」、「寿命25」との通説を根拠に、わたしはきっぱりと何の疑問ももたずごろうとの幸せの日々はこれからは少なくとも20年は続くと思っていた。なのにこの春、ごろうは命にかかわる大病をした(前回参照)。理由はおそらくウイルス性胃腸炎であろう。

今回思い知ったことは、小鳥は一度病気になったら、人間ができることはほとんどないということ。 小鳥は飛ぶために体を軽くするべく、無駄な肉を付けていない。一日食べないとそれは即座に命にかかわることになる。しかし、病気になった小鳥がごはんを食べなくなっても、小鳥は小さいので点滴も手術もなにもできないのだ。しかも、ここが一番問題なのだが、オカメインコの側にも命根性がまったくないのだ。「食べないと死んじゃうよ」といくらごはんをすすめてもそっぽを向いてうけつけない。仕方なく強制給餌をしても、一回くらいはおさまるが、少し体力が戻ると今度は強制給餌されたものを吐き戻そうとする。

わたしたちの嘆きをよそに、具合わるーい食欲なーいあの河わたっちゃおっかなー(渡るな!!!!!)。とガッツのない三段論法でこの不浄の世から解脱してしまおうとする。ごろうがとにもかくにも助かったのは、小鳥のお医者さんによる強制給餌が少しは胃に納まってくれたことと、彼が原種のノーマルオカメインコで基礎体力をもっていたからだと思われる。かりにごろうが人工種の赤目ルチノーだったら、と考えるとぞっとする。

 かくも、「生きる」ことにかけて執着がまったくないオカメインコに比べて、最近我が家の一員となった餓鬼道(白地にキジの雄猫)の生命力はすごい。餓鬼道は一辻先の家に飼われていた飼い猫であり、そもそも節操なく道行く人に餌をねだるネコであった。我が家は今年の初めにるりが他界してより、ネズミの害に悩まされており、ネコを必要としていた。しかし、主義として動物の売買に否定的なわれわれは、ネコを買うことはできず、何とかこの餓鬼道を誘致できないものかと考えた(実は今年のはじめ他界した我が家のネコるりも、こうして、18年前にうちのネコになった)。餓鬼道は他人のネコであるが、雑種で金銭的な価値はないし、地域の人たちからごはんをもらって暮らしているのでもう飼い主の所有権はないであろう。さらに、餓鬼道は雀や鳩にまったく興味をしめさないので、オカメインコとの共存も可能そうである。

 そこで、餓鬼道の前においしいごはんをちらつかせてみると、案の定ふらふらついていきた。そこで、家の前まで誘導し、最初は玄関でごはんをあげた。次には玄関の戸は開けたままで玄関の中でごはんをあげた。さらに、家にあげてごはんをあげるとわずか三日で庭にいつくようになり、さらに二週間ほどたつと、家にあがりこみ、百年前からウチで飼われていたかのようにくつろぎはじめた。餓鬼道の性格はとにかくおだやかで、我が家の生態系の頂点にオカメインコのごろうが君臨していることを、すぐに飲み込んでくれた。さすがに育ちのいい飼い猫である。わたしにとっての餓鬼道はネズミの媒介する菌からごろうをまもってくれるための門番であるが、ネコ好きのダンナにとってはるりを失った空洞をうめるいいオルタナティブにもなっているようだ。

 そんなある日、餓鬼道が食事をしなくなった。このいやしいネコが食べない、それだけで尋常ならざる不安を感じた。なにしろ巨大な肥満雄猫なので本気になって抵抗されたらば大人二人がかりでもキャリーにいれるのはムリ。病院なんかとてもつれていけない。はらはら様子をみながら数日がすぎたが、あまり弱っていく様子はない。そんなある日、餓鬼道が庭で何かを食べているのに気がついた。みるとお刺身である。もしやと思って気を付けていると、隣の若林さんが早朝うちの庭まではいってきて餓鬼道にお刺身をやっていた。餓鬼道が我が家の専属になったことを世間に告知していないので、若林さんが餓鬼道にごはんをあげるのが仕方ないとしても、餓鬼道の節操のなさもいかがなものか。

 このように、オカメインコは病気になるとすぐに天上界に戻ろうとするが、ネコはいつでもどこでも誰とでもごはんを食べる命根性のたくましさがある。餓鬼道のツメの垢を煎じてごろうに飲ませたいところだが、不潔なネコのツメなんかを繊細なオカメインコに飲ませたらまたウイルス感染してしまう。ごろうにもう少し生きるためのガッツが生まれ、餓鬼道にもう少し一宿一飯の恩義を知る心が生じないものか。

 でも不思議なもので、健康な時のオカメインコは、この上なく幸せそうで、文字通り笑いながら、生きることを楽しんでいる。一方のネコはいつも不機嫌そう、だるそうで、決して生きることを楽しんでるように見えない。オカメインコは天真爛漫なはかない美少女のようで、ネコは、周りにぐちぐち自分の不幸話をしながらも、丈夫で長生きする老婆のようである。

 さまざまなる命のかたち。

 


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