04年夏コミ・レポート

午後五時・りんかい線は遠かったの巻

(2004年8月14〜16日 in 東京ビックサイト)


 青森の人々が一年に一回のねぷた祭りの準備に、一年のエネルギーのすべてを使うように、コミケ参加のオタクたちは、年に二回のコミケにおいて、全力をつくしてパーフォーマンスを行う。アジアカップで日中関係が悪化しようが、ナベツネが辞任しようが、イラク戦が泥沼化しようが、そんなことはおかまいなしに、日本中のオタクはこの三日間にもてる限りのエネルギーを注ぎ込みもりあがる。あるものはコスプレや同人誌などの表現者として、そしてあるものは買い手などの消費者として。どんなムーブメントでも、ある一世代でもりあがっても次の世代では尻すぼみになるものだが、このオタクの祭典コミケ文化だけは、衰える気配もなく毎年毎年膨張をつづけている。若い参加者はたえまなく流れ込み、年よりも引退しない。ジャパニメーションはいまや日本の強力な輸出産業であり、世界の文化に影響を与えている。去年から今年にかけて社会現象をおこしている、冬ソナの脚本を書いたユン・ソクホ監督が日本の少女漫画の定番、キャンディ・キャンディにはまって、あのようなこてこての少女漫画ドラマを造ったことなどは好例である。アニメ・漫画は日本の代表的文化である、などと理屈をつけつつ、コミケに向かう私はどこか年よりクサイ。

 国際展示場駅におりたった私は暑さに目がくらんだ。冷夏を究めた去年と対照的に今年は記録的な夏日が続いている。さぞや会場ではオタクがバタバタ倒れていることだろう。わたくしは体力がないので人波をさけていつも閉場まぎわにとびこむのだが、この時間に会場に向かうのは私同様、オタク世代の上限のン十歳代の人々である。何かまわりの中年たちに同志のような共感をいだきつつ駅をでると、前のロータリーにケータイを構える集団を発見した。

 見ると、そこにはコミケ参加者の車がとまっている。車はアニメのキャラクターにごてごて飾られており、見せ物としてそこに駐車していた。一台目はバック・トゥザ・フューチャーでおなじみのスーパーカーのデロリアン。高級車もボンネットにロリコン・アニメときたら形無しである・・・。

 その後にもアニメキャラクターのべたべたはられた車があり、運転席と助手席に人が乗っている。と思いきや、これは二人とも人形でしかも「シケイロス」というパーフォーマンス・・・・・。ちょっと痛い。

 さて、私が参加した日はアニパロの日であり、今年の流行はデスノ(デスノート)とはがれん(はがねのれんきんじゅつし)であった。え、何のことかわからんて? 私もわからんから、まわりの若い子に聞いてください。まりりんのスペースにつくと、さっそく新刊「はんさむの王様」(600円)を手にする。有名な話だが(そして物議をかもす話題であるが)まりりんはセンセと一緒に寝ている。暑い夏、まりりんのお気に入りはセンセの膝頭であり、膝頭のまるみにぴったりアンヨをつけて寝ているそう。かわいー。インコ本の作者である狭霧家センセとみささぎ楓李センセとG・モウトセンセの三人からそれぞれの彼らの世話するオカメインコの話を伺う。

 つぎに、シャーロックホームズの情報誌を出している「英国謎的倶楽部」(イギリス・ミステリー倶楽部)のTさんのところへ伺う。じつは、わたくしこのTさんの情報誌によって、シャーロックホームズが行方不明中(コナン・ドイルの休筆中という話もあるが)チベットに行ったという話を知り、そのことを契機に、シャーロックホームズのチベットでの冒険を描いた『シャーロック・ホームズの失われた冒険』に解説を書いている。彼女の情報誌がきっかけで、私はチベットとイギリス関係の新しい側面に目を向けることができたのだから、コミケ情報は奥が深い。ちなみに、Tさんと立ち話をしているうちに、ひょんなことから、私の知り合いの生物学のI先生が「かえる友の会」というかえるオタクのサークル(笑)を介して、Tさんとも知り合いであることを知って、世間の狭さにびっくりした。わたしのまわりはオタク密度がこいだけかもしれんが。てなわけで、最近、コミケは仕事のはばをひろげてくれ、また愛鳥のお世話のための知識を得る場となっている。昨今インターネットの掲示板情報がこのような同人情報誌と同じ機能を果たしているが、なまみの人と人が直接あって交流できるという点でコミケは顔の見えない掲示板よりいいと思う。

 しかし、日本中からなまみのオタクが多数集結する結果、りんかい線の輸送能力はパンクした。帰りは駅に入るだけで30分行列に並ぶはめになった。猛暑に行列。そろそろオタク世代の上限は体力の限界にきつつある。コミケに参加する人は時間にゆとりをもつことをおすすめする。