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The Resurgence of "Buddhist Government":Tibetan-Mongolian Relations in the Modern World

Yumiko Ishihama, Makoto Tachibana, Ryosuke Kobayashi, and Takehiko Inoue

(256頁、Union Press、2019年、定価4,167円+税、ISBN: 978-4-946428-89-0)

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きっとある、きっとある


 この本が生まれる契機は2013年の7月に遡る。この年はちょうどモンゴル・チベット条約(モンゴルとチベットが互いの独立を承認しあった条約)が締結されて100周年ということで、ウランバートルで国際チベット学会が開かれた。

 私にとっては初めてのモンゴルである。同じ学会に参加するべくウランバートルに滞在していたモンゴル近代史の橘誠先生の道案内で、モンゴルのダライラマとも形容される、転生僧ジェブツンダンパ8世ゆかりの地を回った。

 そこで至る所で目にしたのは、チベットからの影響である。私は17〜18世紀前半までのチベットとモンゴルの関係については研究してきたが、清朝の力が強まった後はチベットが清朝皇帝に与えた影響について興味がうつり、モンゴルのその後については無知であった。

 しかし、こうしてジェブツンダンパ8世の遺構をめぐってみると、ジェブツンダンパ8世の時代のモンゴルにはチベットのダライラマ政権の強い影響力が感じられる。そこで町の真ん中にあるミッシェル・ホテルのカフェで、小林先生と橘先生を捕まえて共同研究をもちかけ、それからあんなことやこんなことがあって彼らがこの本の共著者になったのである(後に井上さんがロシアの仏教徒の専門家として加わる)。

 出版助成費を申請する際、二人に、「一度申請したら表題は変えられないから、かっこいいタイトル考えて」ともちかけたものの、なしのつぶて。まあ何をタイトルにしたら英語圏で売れるかなんて誰にもわからだろうから仕方ない。

 そこで苦し紛れに、その時たまたまロードショー中だった、『インディペンデンス・ディ: リサージェンス』から題名を頂戴したのである。"リサージェンス" とは一端停止していたものが、ふたたび再起動するという意味である。本書は、ダライラマ5世の時にモンゴル人や満洲人を席巻したダライラマの政治権力( 仏教徒による政治) が、その後、いろいろあってしぼんでいったものの、20世紀初頭のダライラマ13世にいたって、再び復活し、両国が諸外国に独立を宣言するのだから、それを表現するのにぴったりのような気がしたのである。

 しかし、今思うとエイリアンの人類への再侵攻をチベット仏教世界の再活性化と重ね合わせたのはいかがなものかと。

 そうともしらず、海外では本書は好評を博しているという。日本の東洋史の学威を欧米に少しでも伝えることがこの本の出版目的の一部でもある。

 以下に目次を和訳とともにはります。

[目次]

序論 (Introduction)
第一章 (Chapter 1)
ダライラマ13世とジェブツンダンパ8世の間に生じた亀裂: 普遍と地域の衝突(石濱)
The emerging split between the Dalai Lama and the Jebtsundamba: A confrontation between the universal and the local church
第二章 (Chapter 2)
ダライラマ13世の亡命と外交(1904-1912) : アメリカ合衆国と日本との遭遇(小林)
The exile and diplomacy of the 13th Dalai Lama (1904–1912): Tibet's encounters with the United States and Japan
第三章 (Chapter 3)
チベット仏教世界の地域間交流の再開: 19世紀後半から20世紀初頭のカルムック人のチベット巡礼
Reigniting communication in the Tibetan Buddhist world: The Kalmyk pilgrimages in the late nineteenth and early twentieth centuries
第四章 (Chapter 4)
清朝由来の称号を捨て、新しい称号を名乗る(石濱)
Parting with the Qing emperor and taking a new title
第五章 (Chapter 5)
ダライラマ13世の即位式をモデルとしたジェブツンダンパ8世の即位式(石濱)
The coronation of the Jebtsundamba modeled on the Dalai Lama's enthronement
第六章 (Chapter 6)
1913年のルンシャル使節団のイギリス訪問: ダライラマ13世の書簡に焦点をあてて(小林)
The Lungshar delegation and Britain in 1913: Focusing on the letters of the 13th Dalai Lama
第七章 (Chapter 7)
1913年のモンゴル・チベット条約の再検討: その同時代的意味
A re-examination of the Mongol-Tibetan Treaty of 1913: Its contemporary significance
第八章 (Chapter 8)
モンゴルに住むチベット人:20世紀初頭のモンゴル・チベット関係(橘)
Tibetans in Mongolia: Mongol-Tibetan relations in the early twentieth century
第九章 (Chapter 9)
20世紀初頭の青海モンゴルとモンゴル(橘)
Between Mongolia and Tibet: Qinghai (Kokenuur) Mongols in the early twentieth century

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