(明石書店 ISBN4-7503-1895-7 定価2100円)
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本書は世界中で評価を受けているチベット文化の様々な側面を、過去から現代に至るまで、また、内と外の視点から総合的に紹介した。
第一部の「聖者たちのチベット」
第二部「雪の国の仏教」
第三部「暮らしの文化」
第四部「チベット・オリエンタリズム」
第五部「チベットのいま」
はじめの三部がチベットの歴史と文化をチベット人の視点、すなわち内部からの視点で見たものであるとすると、第四部では、「外部から見たチベット」像を扱っている。いかに、精神文明に重きをおくチベットとはいえ、人間の国である以上、戦争や腐敗と無縁の社会ではなかった。しかし、西洋人の目から見たチベットは、つねに俗塵の届かぬ「秘境」あるいは「神秘の国」であった。このような「西洋人から見たチベット・イメージ」が第四部のテーマである。
そして、最後の第五部「チベットのいま」は、ダライラマ、カルマパ、パンチェンラマなどの現代を生きる高僧達に焦点をあててチベット人が今現在直面している問題をあぶりだした。
本書全体の最終章でもある第五十章には、ダライラマ14世の人と思想を扱っている。ダライラマは太古にチベットを祝福した観音菩薩の化身であり、開国の王ソンツェンガムポの転生であるという意味では、第一部で扱った神話の体現者である。そして、彼が仏教哲学の大家であるという点では第二部で扱ったチベット仏教の体現者といえ、伝統的な僧院社会に生きる現代チベット人としては、第三部で扱ったチベットの日常文化の体現者といえる。また、彼の聖者としての生き方が西洋人の持つチベット・イメージを裏切ってこなかったことは、第四部で説かれたチベット・オリエンタリズムの体現者としても位置づけられる。つまり、ダライラマこそがまさに、神話と現実の接点にあって、チベット文化のあらゆる側面を奇跡のように体現する人物なのである。このような意味でダライラマ14世は本書を総括する第五十章に据えた。