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『ダライラマの密教入門』

(光文社 ISBN4-334-97112-1 定価1700円)


 ダライラマが世界中をまわって行っている「世界平和の法要」。しかしてその実体とは、実は伝統的な仏教儀礼である「カーラチャクラの灌頂儀礼」です。灌頂とは、ある仏を本尊にした修行に入る際に、その修行に入ることを許可するため力を授ける儀軌であり、「カーラチャクラの灌頂」とはつまりは、カーラチャクラという名前の仏を本尊とした修行を可能とするための入学試験のようなものです。

 この儀軌はとくに仏教が危急存亡の折に挙行されるもので、従って、猊下がこの灌頂を世界中で授けているという事実は、そのままいかに猊下が今仏教が危機的状況にあるかと理解しておられるかを示しているのです。カーラチャクラの灌頂の際に作られるマンダラはマンダラの中でも最大であり、儀式の長さも他の灌頂儀礼より時間がかかるため、カーラチャクラ灌頂とはまさに灌頂中の灌頂といえましょう。 この灌頂の式次第を記したのが、実はこの『ダライラマの密教入門』です。この本の英文原書は、ダライラマが法要をした世界中すべての地ででテクストとして用いられており、会場では式次第の進行とともに原書のページ数がよみあげられ、まさに公式テクストとしての地位を占めております。今年アメリカのインディアナで行われたこの儀礼に日本から参加した方々は、みな本書を真っ黒になるまで読み込んでおられたそうです(この儀礼は日本ではまだ挙行されておりません)。ああ、ありがたや。ちなみにその話をしてくれたのはこの本を作る時にいろいろお知恵をさずけてくださった大阪の平岡センセ(『ゲルク派版チベット死者の書』の著者)。今朝の新聞(2000年1月11日)みたら彼のオジサンが「大阪府知事選に立候補」とのこと。世間って狭いね。

 ちなみに、上の写真にもありますように、本書はオリジナルの表やマンダラなどを添付して整理した記述をこころがけたため、原書を読むよりはるかに、式次第がわかりやすくなっています。外国の読者より得をしているぞ、日本人!


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