(光文社 ISBN4-334-97096-6 1700円)
この本はダライラマ猊下が仏教の基本思想である縁起について語ったものです。縁起とは「ものごとは関係によって存在するかのように見えている」というテーゼであり、ダライラマ猊下はこの縁起を三つのレヴェルで説かれています。最も外面的な縁起としては、人の生から死への輪廻を説く十二支縁起を、さらに深い縁起の解釈としては、すべての全体は部分に基づいて存在しているというテーゼを、最後の最も深いレヴェルの縁起としては、すべての存在はものごとをカテゴライズする意識によってあるかのように設定されているのだというテーゼを提出しています。
仏教というと「漢字が乱舞するわけのわからんものか、ご隠居のくりごとのどっちか」と敬遠される方もいるかと思いますが、この本はそのような仏教書に対する固定観念をいいイミでうち破ってくれます。ダライラマ猊下はすべて日常的な言葉で仏教を語り、その上その内容は哲学の存在論の講義を聴いているかのように緻密で構造的なのです。
『源氏物語』を英語でよんだ正宗白鳥が「はじめて源氏が理解できた」といった有名な話がありますが、ママは『ダライラマの仏教入門』を訳した時はじめて、縁起といゆうものがどういうものかを理解できたような気がしたといっていました。
チベットがテレビでとりあげられる時に必ず、あらわれるこの六道輪廻図の見方も、本書によってはじめてくわしく日本に紹介されました。『大法輪』のチベット特集でもこの部分とりあげられたんだよ。